Vol.70 これからの時代に何故 目標設定は重要なのか
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
これからの時代において、目標設定は何故重要なのでしょうか。
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
企業において「目標設定」は非常に重要な営みです。
この目標設定が、しっかりと機能している組織は健全な活動ができるでしょうし、成果を出せる強い組織であると言えるでしょう。
目標設定が上手くいかないと「面従腹背」や「やらされ感」といった状態が生じることになり、個人のパフォーマンスも上がらず、結果として組織としてのパフォーマンスも上がらないことになります。
■ 「実現したい」と思えるからこその目標
目標は、個人が「それを実現したい」と思うからこそ、その実現(達成)に向けた試行錯誤や努力が行われることになります。
目標やビジョンに対する態度のレベルとして『学習する組織』では以下のような定義がされています。
Lv.7 コミットメント
それを心から望む。あくまでもそれを実現しようとする。必要ならば、どんな「法」(構造)をも編み出す。Lv.6 参画
それを心から望む。「法の精神」内でできることならば何でもする。Lv.5 心からの追従
ビジョンのメリットを理解している。期待されていることはすべてするし、それ以上のこともする。「法の文言」に従う。「良き兵士」Lv.4 形だけの追従
全体としては、ビジョンのメリットを理解している。期待されていることはするが、それ以上のことはしない。「そこそこ良き兵士」Lv.3 嫌々ながらの追従
ビジョンのメリットを理解していない。だが、職を失いたくもない。義務だからという理由で期待されていることは一通りこなすものの、乗り気でないことを周囲に示す。Lv.2 不追従
ビジョンのメリットを理解せず、期待されていることをするつもりもない。「やらないよ。無理強いはできないさ。」Lv.1 無関心
ビジョンに賛成でも反対でもない。興味なし。エネルギーもなし。「もう帰っていい?」
現在も多くの企業で「トップダウンによる目標設定」が行われています。
つまり、会社として売上50億円を目指すので、A部署は30億円を達成するノルマがあり、営業の担当者は10億円の売上を達成するノルマがある・・・というように「上から降りてくる」という形で目標設定が行われます。
しかしこの一方的な目標設定だけでは、Lv1から、よくてLv4程度のコミットメントしか社員から引き出せないでしょう。
それでは会社として卓越した成果を創造していくことは難しくなります。
■ これからのビジネスにおいて重要な企業の競争要因
ロンドンビジネススクール客員教授のゲイリー・ハメルはその著書の中で「企業の競争力に貢献する、社員の能力」について以下のように説明しています。
顧客が毎朝起きて「何か新しいもの、ほかとは違うもの、素晴らしいものはないか?」と考えるような世の中では、企業が繁栄するかどうかは、あらゆる階層の社員の主体性、想像力、情熱を引き出せるかどうかにかかっている。
そしてそのためには、全員が自分の仕事、勤務先やその使命と精神面で強くつながっていることが欠かせない。
レベル1から3は、世界のどこでも雇うことができるので、社員から従順さ、勤勉さ、知識だけしか引き出せないなら、あなたの会社はいずれ経営が傾くということである。
主体性を持った人材は、課題や機会を見て取るとすぐさま行動を起こす。
創造性は、常識に挑戦する意欲を持ち、いつでも素晴らしいアイデアはないかとよその業界の様子を探るような、そんな資質だ。
情熱は、仕事を使命、社会をよい方向に変える手段として捉える姿勢である。
このような情熱漲る人材にとっては、仕事と趣味の境界はあったとしてもごく曖昧なものだ。
彼らは仕事に自分のすべてを傾ける。
創造性が大きな意味を持つ今日の経済で最大の価値を生む資質とは、ピラミッドの頂点に位置する「情熱」である。
大胆さ、想像力、熱意こそが、差別化の究極の源泉である。
ゲイリー・ハメルによれば、社員一人一人のLv.4以上の能力を引き出せるような、目標設定が重要ということになります。
実際に、様々な企業に関わらせていただいて「言われたことしかやらない」「どうしたらもっと積極的に考えてくれるのか?」という相談を、経営者や管理職の方から多くいただいてきました。
その対策の一つとして、目標設定の質を高めるということはとても重要な打ち手と言えます。
そして、AIなどが発展し「ビックデータなど過去のデータから最適解を抽出し提供する」といった仕事に関しては、付加価値が生まれず、
「人間が人間と関わって生まれてくる新しいアイデアや体験」といったことこそが付加価値の源泉となっている時代の流れの中で、社員の創造性を引き出せる目標設定は、ますます重要になってきていると言えます。
いかがだったでしょうか。今回の記事は以上となります。
いつも最後までご覧いただき、誠にありがとうございます。少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。
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[Vol.69 2021/03/09配信号、執筆:石川 英明]
Vol.69 事業継承に悩んでいる
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
事業継承について悩んでいます。
年齢的なこともありますし、自分自身のモチベーションとしても、社長として目標を掲げてみんなを引っ張っていくよりも、信頼できる後継者に会社を委ね、次世代のメンバーでさらなる発展を目指してほしい気持ちが強くなってきました。
しかし、いざ事業継承をしていくためには何をしていけばいいのでしょうか。
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
事業継承についてのご相談もよく受けます。
なかなか難しい課題ですが、順を追って丁寧に行っていけば、良い結果が得られるものでもあります。
今回は実際にご支援してきた経験も踏まえ、事業継承の一般的なステップとそのステップで重要となる要素を解説していきたいと思います。
■ 1.事業継承をする覚悟
まず、社長を退いて、他の人に社長を任せるということについて覚悟する必要があります。
引退後は、基本的に後継者に任せて、口出しをしないということになります。この「任せる」ということについて、覚悟が必要です。
■ 2.事業継承をする条件
実際に「覚悟」と言っても後継者に「ここは守ってほしい」「ここは維持してほしい」というライン、条件というものも出てくるかと思います。
これについては一旦細かく洗い出してみる必要があります。
- 株主として年間●円の配当はもらう
- 会長職として、年間●円の役員報酬はもらう
- 会社として、毎年●円以上の税引き後利益を出すことを基本とする
- 会社の方針として「●●(例えば、顧客満足を重視するなど)」は継続してもらう
・・・などなど、事業継承後も「最低限ここは守ってほしい」というラインがあるかと思います。
それについては、一旦ワガママでもいいので、自分自身の本音で洗い出して、整理してみましょう。
■ 3.事業継承をするという発表
●年後には、自分が社長業を引退して、誰かに次の社長を託す、ということを正式に発表します。
ステップ4でも解説していますが、まず複数人候補者に声をかけて、その後指名するなような場合もあるでしょう。どのタイミングでどこまで発表するかはケースによります。
■ 4.事業継承プロセスのスタート
後継者が一人に決まっている場合は、その一人を役員に昇格させる、副社長に昇格させるなどして内外に「後継者はこの人である」ということを明示します。
そして1~3年程度をかけて、情報開示(財務情報などの共有)と、権限移譲(意思決定を後継者にさせる)を行っていきます。
もし後継者候補が複数人いる場合は、その候補者たちに声をかけて1~3年かけて次期社長を選抜する旨を伝えます。(伝えずに、現社長だけが認識をしていて、選抜プロセスを密かに進めていくという方法もあります)
その際には「次期社長の人材に必要な能力・資質」を明示し、そのような能力を最も発揮できた人材を次期社長に任命するということを伝えます。
“経営陣”として、社長にならなかった人材も次期社長をしっかりと支えて欲しいと考える場合は、その旨も伝えておきます。出世レースのライバルでもありますが、結果が出た後はノーサイド、しっかりと協力して経営を進めていくことを望むと。
それが「役員」や「管理職」の必須条件であり、次期社長に協力できない人間は降格などもあり得ることも伝えておく必要があります。
そして期限内で候補者の観察をよく行い、誰を社長に指名するか決定します。
■ 5.事業継承の本格化
上述した情報開示(財務情報などの共有)と、権限移譲(意思決定を後継者にさせる)を本格化させていきます。
まずは役職としては社長として存在し続け、後継者を副社長などの役職に登用します。
そして部下が社長に直接相談や報告に来ることを断ることをスタートします。「それは副社長に相談しなさい」と、直接自分とやり取りすることを徹底的に断ります。
副社長からの相談にはしっかりと乗るようにします。
報告はしっかりとさせておき、重要な議案については自分の考えを述べ、その判断理由もしっかりと説明します。
この「説明」が後継者育成の肝となります。これによって、後継者が高い視座や広い視野を獲得し、総合的な判断力を鍛えていくことができます。
徐々に「説明する」から「説明してもらう」にシフトしていきます。
この議案についてどうすべきだと考えているか、
その理由はどんなものか。
それを聞くようにシフトしていきます。
このプロセスを通して、後継者に「一人前の経営者」に育っていってもらいます。
■ 6.事業継承の完了
期限を決め、その間に後継者育成を進めて、期限が来たところで新社長に就任してもらいます。会長として残るか、株主だけの立場になるかなどは、当初取り決めていたものを守るようにします。
株主として、四半期に一回、経営者に報告を求める、などは継続してよいでしょう。
重要な点は「How(どうやるか)」の指示はしないということです。
四半期決算の報告などを聞いていると、問題点なども出てくることもあるでしょうが、その際に「このようなアクションをとって(How)解決しなさい」ということを、株主や会長として指示してしまうと、結局、実質自分が経営し続けることになります。
問題があった場合に放置するということではもちろんなく、例えば株主として「この問題について、次回までに改善案を持ってきて聞かせて欲しい」「改善結果を聞かせて欲しい」ということはもちろんあり得ます。
「これは問題だ(What)」ということまで制限されるものではありません。
このWhatとHowの切り分けをしっかりと行うことで、適切な距離で関わることができ、事業継承を完了することができるようになります。
いかがだったでしょうか。今回の記事は以上となります。
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[Vol.69 2021/03/03配信号、執筆:石川 英明]
Vol.68 社員に自分と同じように会社のために情熱的に働いてほしい
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
家業の小売店を継いだ2代目経営者です。もともと年商2500万円規模だったものを自分の代になってから、1億円ほどに伸ばしてきました。
私は、会社を大きくしていくことや売上を伸ばしていくことが楽しく情熱があるのですが、現場の社員や幹部クラスの人材でも、私〈社長〉の掲げる目標にどうもついてこれているような気がしません。
仕事に対してやる気がないわけではないのですが、「より大きく」「より高く」という目標に強い関心があるような感じではありません。
できれば社員にも、私と同じように情熱的に仕事をしてほしいと思っているのですが、やはりそれは難しいのでしょうか。
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
このような問題は多くの会社で起きていて、実は、よくいただく相談でもあります。
今回のご相談内容については、まず人には「タイプ」があるということを理解することが重要です。
■ まずそもそもタイプがある ― あなたはどのタイプ?
一つのタイプは「競争・成功タイプ」です。
これは起業家や経営者、スポーツ選手などに多いタイプです。競争そのものが楽しくて好きで、その競争に勝って成功するということに純粋に喜びを感じます。
「より大きく」という意識が強く、去年よりも売上を大きくしよう、ライバル企業よりも売上を伸ばそうという発想がナチュラルに出てきます。
別のタイプに「手芸・園芸タイプ」があります。家庭菜園などを楽しむようなタイプです。世代でいうと若手に多く、ジェンダーでいうと女性に多いかもしれません。
「より大きく」といったことにはあまり関心が向かず、「毎日を丁寧に暮らす」といったことに喜びがあります。
出世や売上拡大のために残業をしまくって働くという時間配分よりも、そこそこに働いて、早く家に帰り、丁寧に夕飯を自炊するということに時間を配分します。
■ タイプの違いは「違い」であり「優劣」ではない
まずこの「タイプの違い」を違いとして認識できることが重要です。特に、競争・成功タイプの方は、つい、これを「違い」として捉えず「優劣」として捉えてしまうケースがあります。
競争タイプにとって「優劣」という軸が重要であるので、これは仕方がないところでもありますが、競争・成功タイプは、手芸・園芸タイプを見て、「向上心が足りない」「成長欲求が足りない」「もっと貪欲さを出していくべきなのに」と批判的に見てしまうことがあるようです。
しかしこれはタイプの違いなので、いかんともしがたいのです。
どれほど競争・成功タイプの人が「もっと上を目指そう!」を叫んだところで、手芸・園芸タイプの人たちからは「なんでそんな暑苦しいことを押し付けようとしてくるのだろう・・・・」と思われてしまうため、なかなか理解されません。
■ 会社にはさらに問題となる構造がある
またさらに問題となる構造があります。
社長にとっては「売上を増やす!」「店舗数を増やす!」「社員数を増やす!」といったことはワクワクする夢になるかもしれませんが、社員にとっては、売上増や店舗数増や社員数増といったものはそれほど魅力的な指標とは言えないことです。
これは、競争・成功タイプの社員であってもです。
社長にとっては、売上が伸びることで自分の年収も増えるだろうことは紐づいていたりもしますし、店舗数や社員数が増えれば、自分の喜びなどが満たされていくことも容易に想像できるでしょう。
しかし、社員の立場からすると「ずっと一社員のまま」「ずっと給料は変わらないまま」だとしたら、会社規模が大きくなることにはほとんどの魅力が感じられません。
むしろ「いろんな人が入ってきて面倒くさいかも。今の小さな会社で気心の知れた人達と働いている方がいい」とか、「拡大のために仕事が忙しくなるのは嫌だな。拡大しなくていいから、忙しくない方がいい」とか、そういう気持ちが湧いたりするものです。
手芸・園芸タイプの社員であればより強くそういった気持ちを持つことでしょう。
競争・成功タイプの社員であっても「売上を増やす」よりは「年収が増える」方が響くでしょうし、「社員数を増やす」よりは「自分の部下が増える」方が響きやすいということはあるでしょう。
社長と社員は立場が違うため、全く同じ指標を「同じようにワクワクしよう」というのは構造上も難しさがあるのです。
■ 人間が情熱的になるとはどういうことか?
人間が「情熱的になる」というのは、どういうことでしょうか。
情熱的である、夢中である、というのは基本的に内発的なものです。「言われたからやる」といったもので情熱的にするのは非常に難しいものです。
例えば、子供の頃、夢中になって漫画を読んだり、TVゲームをしたりしなかったでしょうか?夢中になるというのは、それが面白いからという純粋な内発的なものの時に起こります。
「宿題をやりなさい」と言われて、机に向かうものの、全然集中できない・・・といったよう体験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。
自分以外の誰かから「やれ」と言われたものに夢中になるということほど難しいものもありません。
社員に情熱的に働いてほしいと思ったら、社員自身が情熱的になることを活用するしかありません。「情熱的になれ!」と外から押し付けることはできないのです。
では、どのようにして「社員が情熱的に働いている」を実現できるでしょうか?
これについてはWhat(何をするか)の情熱と、How(どう関わるか)の情熱を使って考えるとよいでしょう。
■ What(何をするか)の情熱とHow(どう関わるか)の情熱の活用
WhatもHowもどちらも自由に選べた時に、人間は最も夢中になって動きます。
例えば「来週ゴルフに行こう」と自分で何をするかを選んで、ラウンド当日も自分の打ちたいように打っていきます。こうした時は夢中になってできるものです。
仕事においてもWhatもHowも社員自身が選ぶことができれば「情熱的」「夢中」という状態は起こりやすくなります。
しかし、どうしても「会社としてこれに取り組んでほしい」というように、Whatについては社長や上司から指示が出ることもあるでしょう。
その時はできるだけHow(どう進めていくか)については裁量を渡して任せることです。それだけでも、社員の仕事への夢中度はかなり変わってきます。
またWhatについては「上から命令する」ことになる場合には、Why(これをやる重要性、意味はどんなものか)について丁寧に説明することで、Whatを選べない弊害を緩和することができます。
例えば、競争・成功タイプの社員に対してであれば「この重要な仕事を成功させたら、確実に評価が上がるよ」というようなことを伝えることが効果的かもしれませんし、
手芸・園芸タイプの社員に対してであれば「短期的には大変だけれど、長期的には自社のワークライフバランスをよくするためのものだから頑張ろう」というようなことを伝えることが効果的かもしれません。
社員は、社長とタイプも違えば立場も違います。
「違いがある」というのは大前提です。
「うちの社員なのだから、何もしなくても、自分と同じように会社のために情熱的に働いてほしい」という気持ちも出てきたりするかもしれませんが、それはかなり難しい欲求であったりします。
タイプの違いや立場の違いを受容したうえで、「社長としてできる効果的な打ち手」を打っていくということが、組織全体の熱量を高めていく上では重要なことだと言えるでしょう。
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[Vol.68 2021/02/16配信号、執筆:石川 英明]