Vol.64 Teal組織や自己組織化など具体的にどうしてよいものかがよく分かりません
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
Teal組織や自己組織化、ホラクラシー経営など、キーワードに触れることはあるのですが、具体的にどうしたらよいものかがよく分かりません。「最初からそういう会社ならできるのか、、、」と思うところもあります。
普通の事業をしていて、普通の人事制度などもある中で、何から手を付けていけばいいのか。。。
若い社員と接していて、仕事への感覚などが違うことを感じることも多く「会社が変わっていく必要があるのだろうな」と思っています。
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
ご相談ありがとうございます。
様々な経営理論が次々と出てきますし、それを「自社で実践する」となると、具体的にどうしたらよいのか?と迷われることも多いかと思います。
多くの企業の変革をお手伝いしてきた経験上、「一気に変える」ということはなかなか難しいものがあります。また、急ぎすぎると、副作用のようなものが噴出してしまうということも起こりえます。
ですので、まずは無理のないところから、徐々に取り組んでいくとよいかと思います。
今回の記事では、どうしてTeal組織や自己組織化といった組織論が話題になってきているのか、また自社で実践していただく際に、すぐにできる、無理のない範囲で導入しやすいポイントをご紹介します。
■ 多くの企業に不足しがちな〇〇
多くの"企業"において不足しがちなものが二つあります。
一つは「感情の流通」。もう一つは「非ヒエラルキーの場」です。
まず一つ目の「感情の流通」について。
Teal組織や、自己組織化、といったことに共通して重要な要素は「人間を、生命体として観ている」という価値観や思想ということになります。
これに反して「人間を機械のように観て扱う」マネジメントがあります。
命令というインプットをすれば、成果というアウトプットが出てくる機械。そのような機械的イメージが強い職場では、人間らしさとしての感情などはほとんど取り扱われることがありません。
Googleのレポートによって一躍注目を浴びるようになった心理的安全性というものは、まさに人間の感情領域の重要性を示しています。職場の中で、感情が流通する場を、意図的に(そして少しずつ)増やしていくとよいでしょう。
■ 感情の流通のできる場が減った背景
少し背景について触れると、この「感情の流通」は、高度経済成長期などには「上司と部下が飲みに行く」といった場によって担保されていたところがあります。
オフィスの中というオフィシャルな場では感情は取り扱われないが、その代わり、居酒屋という場で、濃密に感情のやり取りをする、そのようにしてバランスが取れていた面があるかと思います。
しかし、バブル崩壊後、終身雇用が崩れ、転職が当たり前になり、「勤務時間以外で、わざわざ会社の上司と飲みに行きたくなどない」という考えも強くなり・・・その結果、感情が流通する場が失われました。
変わらず職場では「感情を持ち込むな」というのは続き、一方で「飲み会などで、感情のやり取りをする」という場は失われたため、感情的なつながりというものは、減る一方という状態になっています。
そこで「飲み会を復活させる」というのも一つの選択肢ですが、それだと特に若い人たちは「勤務時間外まで先輩や上司に時間を拘束される」とネガティブにとらえてしまうことも起こるでしょう。
■ 具体的に今からまずは何ができるのか
ではどうしたらよいか、というと勤務時間中、オフィシャルな時間の中で「感情の流通」ができる場を持つ、ということになります。
嬉しい、悔しい、不安だ・・・というような感情は、機械的な職場においては「無駄」「意味がない」のように扱われがちですが、それらをしっかりと勤務時間中に取り扱うようにするわけです。
いきなり、1日8時間の勤務時間のすべてを「感情のコミュニケーションに変える」ということではありません。
8時間のうち、5分とか、10分とか、その程度でもよいわけです。それだけでも確実に組織は変化していきます。
例えば朝礼を始めたとします。
毎日日替わりで社員が「事実+感情」を伝える朝礼をやります。
「先週自分が頑張ったことは・・・です。気持ちとしては、上手くできずに悔しかった気持ちと、新しいことに挑戦して誇らしい気持ちとがあります。」
このような時間をとることで、失われていた「職場での感情の流通」が再興されてきます。
慣れてきたら「各会議の前に、5分ほどチェックインの時間をとる」ということもやってみるとよいでしょう。
チェックインは「今の率直な気持ち」を一人ずつ共有するというものですが、これも「気持ち(感情)」を共有するよい機会となります。これくらいの、1日5分や10分程度の取り組みであれば、それほど負荷がかからず初めていけるはずです。
一度、1時間程度しっかり時間をとって感情の流通の場を持つこともよいでしょう。
そうすることで「ああ、感情がちゃんと取り扱われるのっていいな」と実感できることが多いからです。
最初は、ポジティブな感情に絞って取り扱うようにするとよいでしょう。ネガティブな感情(不安、怒り、悲しみなど)は、取り扱うのに難しさが上がります。
おすすめは「感謝の気持ち」の共有です。
感謝、も感情です。そして、感謝を表明されていやな気持になるということはあまりありません。(全くないわけではないので、注意は必要ですが)
部署のメンバーで集まって、1時間(30分程度でもOKです)とって、お互いに感謝を伝え合う。
そのような場を持つことで「ちゃんと気持ちを共有するっていいな」という実感が感じられますし、何よりも関係性がよくなり、業務上の連携がスムースになることなどにもつながっていきます。
他にもいろいろありますので、引き続き書いていければと思いますが、「Teal組織にするには!」みたいに意気込んで、何か”すごいこと”をやらなければいけないわけではありません。
こういった要素を、一歩ずつ実行し、積み重ねていくことで、着実に組織はよりよくなっていきます。
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[Vol.64 2021/1/19配信号、執筆:石川 英明]
Vol.63 中長期的な見通しや会社全体の話に対して、社員が「会社の言いたいことがよくわからない」状態になっている
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
年始に今年1年の目標と中長期の見通し、会社全体で取り組んでいく課題を社員に発表したのですが、中長期的な展望や課題、会社全体でやっていかなければいけないところについて、イマイチ社員が理解できているように思えません。
こういったところを考えていくのは社長や役員の仕事ではありますが、現場の社員たちが「会社の言いたいことがよくわからない」、「社長は何を言っているんだ」という状態では困ります。
情報はかなり開示している方だと思うので、その情報をみて社員が自分でも考えられるようなチカラ、「全体的な視野をもって考えられる力」や「長期的な視野をもって考えられる力」を高めたいと思うのですが、どうしたらよいでしょうか?
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
■ 役割分担による効率化が全体的な思考を狭めてしまうジレンマ
現代の企業経営は「効率化」を求めるため、役割範囲を小さく定めて、その範囲の中の専門性を高めるように動いています。そうすると、専門性は高まりますが、どうしても全体的な視野というのは持ちにくくなります。
経理の専門家は、営業のことが分からず、営業の専門家は、生産のことが分からず、生産の専門家は、経理のことが分からない、、、というようなことが容易に起こります。
このような状況を打破するために、一つ考えられた方法が「ジョブローテーション」です。
他の部署の仕事についても実際に経験するため「会社全体としては、関係しあいながら仕事をしているのだな」としっかりと実感することが出来ます。
しかしジョブローテーションにもデメリットはあります。
「自分は営業の専門性を磨きたいのだから、経理部へ異動なんかしたくない」といった社員のモチベーション低下や離職を招くリスクがあります。
また、営業部からすれば戦力の社員がいなくなり、経理部からすれば素人の人間が入ってきたので教育負荷がかかるというようなことも起こります。
これらのことから「ちょっとジョブローテーションをやるのは難しい・・・」という状況の会社も多いことでしょう。
では、ジョブローテーション以外に「全体的な視野を持たせる」方法はないのでしょうか?
■ 社員の全体的(総合的)な視野を高める解決策のひとつは〇〇
解決策の一つになりえるのが「ディベート思考力」を鍛えることです。
例えば経理部と、営業部で問題があったとします。
「経費精算完了の責任をどっちが持つのか」といった問題について、営業部の人間は「経理部の立場として、営業部が責任を持つべきだ」という論を主張し、経理部の人間は「営業部の立場として、経理部が責任を持つべきだ」という論を主張します。
これがディベートです。
このディベートをしっかりと行うことで【複眼的思考】が身につきます。自分の立場の視点からだけで考えるのではなく、他の立場の視点からも考えられる力がつきます。
これは、そのまま「全体的な視野を持って考える力」につながっていきます。
全社員が「全体的な視野を持って考える力」がなければいけないわけではないでしょうが、少なくとも「営業部長」や「経理部長」が、これらの力を持っていることは、企業経営に確実にプラスに働きます。
営業部のことしか考えない営業部長よりも、経理部や生産部のことも考慮して判断できる営業部長の方が、会社全体にとってより適切な判断ができることは明白です。
■ 本質的に長く続く会社であるために
「長期的な視野を持って考えられる力」については、より意図的に「組織的に育んでいく」意識が必要となるでしょう。
企業経営の基本単位は「1年」です。
これは税務上の単位ですが、どうしてもこの税務上の単位に影響を受けてビジネスをすることになります。税負担の影響の大きい中小企業にとってはなおさらです。自ずと「今年をどう乗り越えるか」という発想が、企業経営の中核を占めるようになってきます。
社長は部長に「今期の着地見込みは?」と聞くでしょうし、部長は部下に「今期の目標を達成するぞ!」とはっぱをかけることでしょう。
そうなると「うちの会社を取り巻く環境は、5年後、10年後にはどのように変化しているだろうか?」「その変化に対して、今のうちからどのようなことをしていくべきだろうか?」ということを考えることは、日常業務の中ではほとんど起こらないということになってきます。
しかし実際には、企業経営の舵取りをする際には、5年10年単位での大きなが流れを見通しながら、それも踏まえて適切に対処していく必要があります。
そして「10年後を見据えると、今やっているAはやめて、Xを始めるべきだ」といった判断も必要となることがあります。
このときに「現場の、長期的な視野を持って考えられる力」が低いと、相談者さまが危惧されているとおり、社長だけが長期的視野から判断しているけど、現場には全く理解できない、むしろ不満が募る・・・というようなことも起こりえます。
ですから仰るように、社員の方の「長期的な視野を持って考えられる力」もとても重要となるわけです。
日常業務の中で自然と育まれることは期待できないわけですから、これは意図的に時間をとって伸ばしていくしかありません。
例えば年に1回は、社員たち自身が「自社を取り巻く環境の、今後10年間の変化はどんなことが予測されるか?」を調べたり、考えたりする時間をとるということです。
この時間は「明日、業務に戻って役に立つスキルの獲得」といった種類の研修などとは違うものになります。ですから、現場社員からすると「こんな時間とって意味あるのか」という不満もでるかもしれません。
しかし、いざ経営者が、先をを見据えた経営方針を発表した際には、これらの時間を持っていることがボディブローのように効いてくることになります。
しっかりと「先を考える」という習慣が(年に1回だとしても)ある現場では、「社長の先を見据えた方針は理解できる。自分たちも、現場で出来るところからやっていこう」と、受け入れて実行していく力が高くなるわけです。
なお、経営者が社員に「長期的に考えることが重要だ!」といくらメッセージを発したところで、それだけでは現場の長期的思考力が高まることはまずありません。
なぜなら、現場社員は、ほとんどの場合「今期の目標達成にどれくらい貢献できたか?」という評価指標に、良くも悪くも行動を管理されているからです。
ですから「長期的に考えることが重要だ!」という場合には、実際に「長期的なことを考える時間(研修など)」を業務命令として確保することが重要です。
そうすることによって初めて、現場の長期的思考力を高めていくことが出来ます。
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[Vol.63 2021/1/12配信号、執筆:石川 英明]
Vol.62 いい人材がなかなか採用できない
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
いい人材がなかなか採用できず、困っています。
どうしたらよいでしょうか。
◆◇◆ 石川からの回答 ◆◇◆
ご質問ありがとうございます。まずは「いい人材」とはどのような人材でしょうか、ということから考えてみたいと思います。
自社の事業に情熱を持ち、言われてないことでも自分で調べたり、考えたり、動いたりしていくような人材がいい人材でしょうか。
それとも、言われたことに素直に従い、着実に実行できるといった人材がいい人材でしょうか。
もし後者のような人材を求めるのであれば、それは正社員として採用するのではなく、外注先として契約するということも選択肢かと思います。きっちりと要件を伝え、納期や契約金額をハッキリとさせ、着実に依頼した仕事を遂行してもらうということです。
現在は、かなり多くの仕事が「外注」を検討できるビジネス環境にあります。
しっかりと吟味をしていくと自社の正社員として雇用すべき人材というのは、もしかするとそれほど多くないかもしれません。
■ 採用の段階で訴求するものがその後にも大きく影響する
自社の事業に情熱を持ち、言われてないことでもどんどん自分で調べて、考えて、動く・・・といった人材を採用するには、逆説的になりますが「情熱を感じるような事業」を営んでいるということが重要になります。
例えば、今はオイシックスと経営統合をした大地を守る会という会社がありました。
有機農法などの農作物を通販するといった企業でしたが、社名に現れているように、地球環境を大切にしよう、そのためにできることをしようという理念を強く持った会社でした。
この企業は、大学で、環境について学んできた学生などには大変人気で、入社するための倍率は大変高いものがありました。「環境に貢献する仕事をしたい!」という情熱を持った学生を引きつける事業内容であったということです。
採用の段階で、人材に一番に訴求するものが「待遇のよさ」などであった場合、「待遇のよさ」を重視する人材が集まってくると考えていいでしょう。
そうであれば、入社してからもそういった人材たちは「会社に待遇改善を求める」「よりよい待遇の転職先を常に探している」「待遇に見合った分だけ働く」といった行動が多くなることは容易に予測されます。
採用の段階で、人材に一番に訴求するものが「自社の事業の意義や重要性」などであった場合、それに共感し、「この事業に関わりたい!貢献したい!」という人材が集まってくると考えていいでしょう。
そうであれば、入社してからもそういった人材たちは「この事業をどうしたら伸ばしていけるだろうか?」「どうしたらもっと自社を発展させられるだろうか?」などと考えて、行動するといったことが期待できるでしょう。
このような「いい人材」を採用しようとというときには、前提となる「事業の魅力」「事業の意義や(社会的)価値」といったものを磨いていくということが重要になります。
■ 中小企業でも「自社事業のブランディング」は重要
中小企業であっても、大企業であっても「自社事業のブランディング」は重要です。もちろん顧客に対するブランディングもありますが、採用における企業ブランディングも考える必要があります。
採用、ということになると「どの媒体に、どう採用予算を使うか」といったことにフォーカスされることも多いかと思います。もちろんそういった具体的なレベルの検討も重要ですが、根本的に「人材を引きつけられる会社」にしていくということ、それを情報発信するということも非常に重要だと言ってよいでしょう。
短期的には「こういった採用媒体を活用する」といったことを細かくアップデートしていくことが必要ですが、中長期的に「人材の方から、どんどん集まってくる」という状態を形成することが理想的ではあります。
それは単に採用だけの問題に限らず、「入社後の人材の活躍度・成果」「会社の競争力」といったことにも直結してくることでもあります。
会社理念、存在意義、事業の目的、ミッション、パーパス・・・・などなど様々な呼び方をされていて、経営の教科書的には随分と前から「重要だ」と言われてきたものですが、時代の変化もあって、ますますその重要性が増してきています。
特に新卒採用に関わっていると「はたらく意味」を求める学生が非常に多くなってきていると感じます。中途採用であっても、その傾向は強くなっているかと思います。
「仕事なんだから、いいから働け」とか「給料をもらう以外に仕事をする意味なんてない」といった状態を続けていると、中長期的に採用難に陥り、人材の質が低下し、そのために事業の競争力も低下していき・・・といった負のスパイラルに入っていってしまう危険性もあります。
「いい人材」が、向こうからどんどん「入りたい」と言ってくる会社にする。
そのことを常に念頭において、打つべき施策を積み上げていくことが求められているかと思います。
今回の回答は、以上となります。
いつも最後までご覧いただき、ありがとうございます。
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[Vol.62 2020/12/22配信号、執筆:石川 英明]