Vol.26 評価制度への不満がなくなりません
◆◇◆ 今回のご相談内容 ◆◇◆
いろいろと自分でも勉強し、ときには外部の手も借りながら、制度を整えてきましたが、評価制度への不満が一向になくなりません。
そもそも評価制度というものをどのように考えたらいいのか、どのような改善が望ましいか、アドバイスをいただけますでしょうか。
◆◇◆ 石川からのご回答 ◆◇◆
■ 評価への不満はなくならない
評価制度への不満と言うのは、どこの会社にでもあることです。結論から言ってしまえば、評価制度への不満が完全になくなることはありません。
評価制度への不満が生じる根本的な理由は、まず「幻想を抱いている」ということです。みなさん「完璧な評価制度があるはずだ」とどこかで思い込んでいるのです。
完璧な評価制度があるはずなのに、自社の評価制度はそうなっていない、と思うから、不満に思うわけです。
完璧な評価制度のイメージを持ちやすいのは、プロ野球などの「データ」と「年俸」というイメージがあるからという影響は無視できないだろうと思います。
しかし、プロ野球選手の「評価制度」はとても特殊な環境です。
- 年間140日ほどしか勤務(試合)日数がなく、かつ、勤務時間は1日3時間程度。
- 練習などのプロセスはほぼ評価外
- 「仕事=試合」とした場合、試合中のデータが非常に細かく取得されている
- 自社に被評価者が9人しかいない。(ベンチを入れても20人程度)
これはとても特殊な環境です。
もし、普通の企業で「プロ野球選手なみのデータを取る」としたら、まず社員Aの働きぶりを1日中張り付いて撮影などしてデータを取る「データ取得社員」が必要になります。
これを想像した時点で「プロ野球選手的な評価を受けるのは無理だな」ということが分かります。
このことに社員の方に気づいてもらえるだけで、評価制度への不満は大幅に減ります。(クライアント企業でもとても減っています)
■ 評価制度への不満なのか、評価者への不満なのか
評価制度への不満以上に、評価者に対する不満が根本原因のことも多々あります。
「この人はちゃんと自分の仕事ぶりを見てくれていない」
「この人は、仕事を公平に見ずに、自分の好き嫌いで評価している」
「そもそもやる気のないこの上司に、評価なんてされたくない」
こういった不満は”評価制度”をいじっても取り除くことができません。
被評価者からの、評価者への信頼、敬意といったものが高まれば「評価への不満」はかなりの割合で減ります。
このためには、
「評価者たりえる者を適切に昇格させる」
「評価者としての観察スキル、フィードバックスキルを鍛える」
といった対策が効果的ということになります。
■ 報酬制度・賃金制度の問題
評価項目もきっちりしている、評価者とのコミュニケーションもしっかりしている、自分への評価(点数)も納得がいっている。
しかし、、、、「給料が上がらない!」
こういう不満ももちろん多く聞きます。
これは「評価制度」というよりも「報酬制度、賃金制度」の問題です。
評価制度は「どんな活躍をした人材にA評価を与えるのか」を定めたものだとしたら、報酬制度は「A評価の人材は、何パーセントの賃上げをするか」を定めたものと言えます。
「結局A評価をとっても、月給が1%も上がらないんじゃ、頑張る気になれない」
こういう状況もよく見かけます。
そもそも社員の側からすれば「頑張って高い評価を得たら給料を上げて欲しい」と思っていますし、そこには「青天井に上げていって欲しい」という期待が隠れています。
しかし、経営者が「給与」を決める際に、最も重視するデータは「相場」です。
この差は、とても大きいのです。
社員は「頑張ったら」「成果を出したら」その分給与を上げて欲しいという思考パタンになりがちです。
しかし、市場原理に沿って言えば「その成果を出せる人材の給与の市場平均がどうか」が経営者にとっては重要です。
1000万円の利益を出す人材の市場平均が年収300万円なら、年収400万円で1000万の利益を出す人材をクビにして、300万円の社員に替えたほうが、会社の利益が増えます。
この点についても「社員」という雇用形態を選び、「給与」という収入形態を選んだ時点で、ある程度そうなってしまうのですが、そのことについて深く調べたり、学んだり、考えたりしたことのある社員はそれほどいるわけではありません。
そして、この説明を、上司や経営者からさせることもほとんどないでしょう。
ここに不満の源泉があることも多々あります。
■ 評価制度への不満が減るには
- 完璧な評価制度はないと「腹落ち」すること
- 評価者の、評価者としての実力を高めること
- 報酬の原理について、社員の理解を深めること
これらの打ち手が本質的に重要になってきます。
もちろん「評価項目を整理する」ことや「点数付けの基準を明確化する」といったこともないがしろにはできません。
しかし、その領域だけ手を打っても、評価制度への不満が減ることはなかなかありません。
■ そもそもの「労働観」を醸成する
現代では多くの人が「なぜ働くのか?」と問われれば「賃金を得るためだ」と答えるのだろうと思います。
賃金を得るためだけに働くのであれば、基本的な発想として「できる限り効率的に賃金を得たい」となるのは当然です。
となれば
「お金になることだけやる」
「お金にならないならやらない」
ということになります。
同僚がトラブルを起こした時に、助けるのはどうでしょう?
―――お金にならないからやりません。
逆に、少し倫理的にグレーでも、お金になるのならやろうという気持ちにもなりやすくなります。
働く目的が「賃金を得るためだ」だけで成り立っている会社組織は、様々な弊害や困難を抱えることになります。
もちろん、賃金は大切です。
しかし、賃金以外にも
「お客様から感謝される喜び」
「成長する喜び」
「自分の才能を発揮する喜び」
「助け合う喜び」
なども得ることができるのが仕事です。
賃金を増やすことだけでなく、こういった喜びもまた増やしていく、それも仕事の意味なのだという労働観を醸成していくような打ち手も大切にしていきます。
そうすることで、損得勘定だけで成り立つようなギスギスした職場から、人間が協働する喜びや情熱にあふれた職場にシフトしていくことになります。
そういった職場になっていくほどに「評価制度への不満」も、相対的に減少していくことにもなるのです。
今回の質問に対する回答は、以上になります。
参考になるところがございましたら幸いです。
いつも最後までご覧いただきありがとうございます。
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[Vol.26 2020/02/25配信号、執筆:石川英明]